まろやんの徒然猫草

草紙といえる程のものでも無い道端の猫草ですが、その時々の興味があることを書き連ねていきます。

この愛は、異端。 感想・考察(ネタバレ有り) 第10話

漫画『この愛は、異端。』感想・考察(ネタバレ有り) ~第10話~

※既読者向けの内容になりますので、未読の方は是非作品を先にご覧ください。

この愛は、異端。 2 (ヤングアニマルコミックス)

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第10話はよしのが通う大学の芸術祭のお話です。旭君や周りの人間達の発言によってよしのやバアルの心境に変化が生まれ、徐々に互いの歯車が噛み合わなくなっていきます。 

 

よしのが通う美大はどうやら東京芸大(東京藝術大学)がモデルの様ですね。

ちなみにモデルとなった東京芸大は日本で唯一の国立芸術系単科大学で、芸術界でもエリート的存在とのこと。それゆえに入試の競争倍率も高く、学科によっては東京大学を上回る難易度で現役合格よりも浪人生の方が多いようです。国立大学のためセンター試験の成績も重要で、美術や音楽等の専門分野だけを勉強すればいいだけではなさそうですね。

 

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大学の芸術祭で模擬店の売り子をするよしのと旭君。

よしのの日本画科は「大観」という沖縄料理のお店のようですが、東京芸大の卒業生でもある有名な日本画家の横山大観の名が由来なのでしょうか。あるいは人名ではなく沖縄繋がりで幻の琉歌集と言われている「琉歌大観」という歌集が由来なのかも知れませんが、詳しくは分かりません。

一方旭君がいるデザイン科は「オソオセヨ」という韓国料理のお店ですね。オソオセヨは韓国語で「いらっしゃいませ」または「お帰りなさい」という意味らしいです。

なお芸術祭の開催時期ですが、東京芸大の藝祭を見る限りでは9月の第一週目辺りに開催されていますので、本作でも同時期だとイメージして読み進めます。

 

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優しい眼差しでよしのに声をかけ写真を撮るバアル。 周囲の目を気にしつつも、長年染み付いた癖でカメラを向けられると条件反射的にポーズを取ってしまうよしのが可愛いですね。そんな可愛い可愛いよしのの決定的瞬間を逃すまいと、連写で撮りまくるバアルは相変わらずのストーカー体質です(笑)

そんな仲睦まじい二人を訝しげに見つめる旭君、バアルはそんな旭君に見せつけるようによしのの頬を触ったり頭を撫でて旭君を牽制します。

 

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そんなバアルの保護者らしからぬ行動は、旭君以外の人物の目にも留まります。よしのの友人のあいりちゃんはサバサバ系女子の様ですが、二人の血縁関係を気にした上で全てを見通したような発言をします。あいりちゃん鋭い…というより、これだけ露骨な行動をしていればまあ察しはつきますよね。

 

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よしのは13歳の時に両親を交通事故で亡くしていますが、どうやらあいりちゃんも同年代の頃に母親が亡くなっていたようです。以後父子家庭で育ったあいりちゃんは自立心が強く、早く独り立ちして男手一つで苦労をかけた父親を安心させたいと語ります。似たような境遇にも関わらずバアルにべったり甘えて来た自分には想像もつかなかった「自立」という言葉。よしのは自分の今までの振る舞いを思い起こします。

 

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一方そんな娘のシフト終わりを待ちながら語らうあいりちゃんパパとバアルですが、男手一つという共通点に親近感を持ち、育児の苦労を一方的に語る彼の発言に徐々に気分を害します。

娘が父に依存せず自立できるのが正しい愛情であり、いつか誰かの元へ嫁ぐ事は寂しくても父親としての誇りだと言われ、自分とよしのとの歪な関係を真っ向から否定されたように感じたバアル。腹立ちまぎれに殺してやろうかと殺意が芽生えたその矢先によしのとあいりちゃんが待ち合わせ場所に現れたため、あいりちゃんパパは結果として難を逃れます。

 

バアルにとってよしの以外の人間は虫けら以下でしか無く、生殺与奪の力を持った悪魔としての傲慢な感情が垣間見えましたが、ここであいりちゃんパパが殺されなくて本当に良かったと思います。もし悲劇が起きていたら、そしてそれをよしのが知る羽目になったら…二人の幸せな家庭生活は実現しなかったでしょうから。

 

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学内を歩き回って疲れた足を休めるよしのと、それに付き添うバアル。よしのは意外と酒癖が悪いので(第9話参照)ビールはコップ一杯までと制限されてますね。ほろ酔いでビールをこぼしてしまったよしのに普段通り世話を焼こうとするバアルですが、自立を意識したよしのにそれを制されます。よしのの変化に焦りを抱いたバアルは、今までの周囲の人間の不快な発言を掻き消しよしのを繋ぎとめようと対価を求めます。

 

よしのが自立しようとするのを阻止するバアルの言動に「真の保護者としての愛情が無いのか」と違和感を覚える方もいるかも知れませんが…それはあくまでも今の日本で生活している一般庶民の感覚であり、時代や環境が違えば同じ人間であっても異なる価値観で生活する人は多く存在します。例えば、昔の王侯貴族であれば身の回りの世話は全て召使にさせるのが当然という風に。

一般的な親であれば当然子供が巣立つ事を前提とした教育やしつけを行うでしょうが、そもそもバアルはよしのの実の親でもない上に人間ですらありません。よしのを手放すという前提が無い以上、基本的なしつけや公序良俗を教えることはあっても自立心を養わせる必要は皆無だからです。

 

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今までになく強引に、かつ激しく対価を求めるバアルに戸惑いを隠せないよしの。バアルは対価の内容をエスカレートさせることで周りの雑音からよしのの目を背けさせようと必死ですが、バアル自身も気づかないうちに悪魔としての目的が変化している事が分かる重要なシーンと思われます。

かつての悪魔ベリアルにとって「目的」はよしのの身体と魂であり、過去の獲物達のように身体を手に入れれば後々心も手に入る、愛を知らない自分にとってよしのの心は不要な感情だとも言い放っています。(第2話参照)

けれど旭君やサタンなど周囲の存在によって自分とよしのの関係が崩されそうになり、それを誤魔化し現状維持しようとするうちにバアルの本心が少しずつ浮き彫りになってきました。『そのまま快楽に溺れて私に" 心 "を委ねろ』と切望するバアルの言葉から無意識の心のうちが伺えます。

 

以上、第10話での諸々ポイントでした。